犬の笑顔はアハー

呑んだり食べたり見たり聴いたり読んだり思ったり

旅の思い出 2013夏 1

 8月某日、新潟・長野に行ってきた。新潟二泊、長野一泊の一人旅である。

新潟では父の実家にいる祖母(98歳)に顔を見せる事、学生時代の友人ユミちゃんに会いに行く事、お酒を呑む事、が目的であり、長野では長野県信濃美術館の東山魁夷館に行く事、小布施に行く事、お酒を呑む事が目的であった。

祖母と暮らしている叔父夫婦も70代半ばを過ぎ、最近特に叔母の体調がよろしくないため、宿泊は新潟駅に近いホテルにした。(叔母には「気にしないで泊まってよー」と言われたけど)  

 父の故郷には新潟駅前から高速バスで1時間ほどで着くのだが、私は車酔いするするので大抵は電車で行く。乗り継ぎの待ち時間を考えなければ乗っている時間は35分くらいか。着いた駅から15分弱バスに乗ることになるけれど、そのくらいなら大丈夫。ほとんど真っ直ぐな道だし。

しかし今回はスケジュール的に電車では難しかったので高速バスで行くことに。で、やっぱり酔った。新潟駅を出発してしばらくは街中なのでぐるぐる曲がったり、信号が多いのでブレーキを踏むことも多いし。そういうのに弱いんだ。がんばれ私。

がんばった私は無事に昼頃父実家に到着し、祖母、叔父夫婦、近所に住むM子叔母と仕出し弁当をいただいたのであった。

 高齢の祖母は、今さっき話した事はすぐ忘れてしまうが昔の出来事は昨日の事のように憶えていて、その頃の話を聞くのが興味深い。祖父が曾祖母から受けていた婿いびりの話とか(祖父は婿養子)戦争中の話とか重たい内容なのだが、祖母のユーモラスな口調で聞くと遠い昔話のようである。昔話だけどさ。身近な人たちの。

今年の春に出かけた先で撮った自分の写真をまじまじと眺めながら

「オレも歳とったなあ。いつからこんなおそろしげな姿に・・・」

と言う祖母。笑っちゃうじゃないか。

 帰りがけ、家の外まで見送りにきてくれた。

「また来るから生きててね。」

「生きてるからまた来い。」

年寄りとの別れはせつないなあ。

 

 帰りのバスではそれほど酔わず18時過ぎに新潟到着。予約したホテルをさがしてさまよう。系列のホテルのフロントで道を聞き、なんとかたどりついてチェックイン。

 

 さあ、呑みに行きましょう。とりあえず目指すは、数年前の冬にやはり一人で入った古い店。若くはないご夫婦が二人でやっている地味目のお店だった。のどぐろのアラ煮やのっぺをつまみに湊屋藤助や鶴の友を呑んだのだった。郷土料理だし、とうっかり注文してしまったのっぺには私の苦手な干しシイタケがごろごろたっぷり入っていた。自分で注文したのだからとがんばって完食したのもいい思い出である。(あたりまえだ)

 場所は漠然としか憶えていなかったけれど、このへんだったよなと歩き回る。ぐるぐると同じ場所を何度も何度も。ここだったと思うんだけど、という所は若向けのこじゃれた店が。なくなっちゃったのかしら。別の店にチャレンジしてみるか、と気持ちを切り替えまたぐるぐる。心ひかれるお店を2,3候補にあげて、それぞれのお店の前を行ったり来たり。はたから見たらなんて怪しい女であろうか。

結局、表に出ている品書きを見比べて、肴のお値段はやや高めだけれど、お酒の種類も豊富な割烹・小料理のお店へ。

 

 そろそろとお店に入ると出迎えてくれたのは着物にたすき掛けのママ。明るいお母さんといった雰囲気。

小上がりでは会社の同僚の飲み会、といった風情のグループが楽しげにのんでいた。私はカウンターへ。カウンターの中にいる板前のマスターの雰囲気は、地元でよく行く飲み屋のマスターに通じるものがあり、きっと美味しいものを出すんだろうな、となんとなく安心する。

 本当はまずビールをのみたいところだが、私の体はアルコールの許容量が多くないので一人で何種類ものお酒を呑むにはビールはあきらめた方がいいだろう、と最初から日本酒にいくことにする。

純米酒は何があるか聞くと、麒麟山と鶴齢だという。じゃあ鶴齢を、とたのんだら、なんと品切れであった。残念。麒麟山を注文。

ママは「旅行者はみんな、純米を呑みたがるのよねえ。本醸造だって美味しいのはたくさんあるのに。」と何やらくやしそう。じゃあ、次のお酒はママおすすめの本醸造をいただきましょうね。

 写真を1枚も撮らなかったのではっきり憶えていないけれど、お通しは冷たくさっぱりした味付けの茄子だった。美味しかった記憶はしっかりある。

枝豆と旬の焼き魚のスズキを注文したら、スズキは品切れ。そのかわりアラバチメはどう?と言われたのでそれをいただく事にした。アラバチメって初めて聞く魚だったので名前を忘れないようにノートにメモ。ママには「まめねえ。」と笑われたけれど、呑んだお酒の名前も食べたものもお店の名前も全部メモしておいた。じゃないと絶対忘れるから。このブログを書けるのもメモのおかげである。旅の恥はかき捨てさ。

小上がりのグループはドカベンの話をしていた。そういえば水島真司は新潟の人だったっけ。

 

 魚は塩焼きで出てくるのかと思ったら、しょうゆだれをぬって焼いたものだった。上にちらしてある青ネギがいいアクセントになっていて美味しい。お酒が進む。ごはんにも合いそう。

 麒麟山を呑み終える前に、ママが私に出してくれるお酒を選び始めた。「麒麟山、全部呑んじゃわないでね。」と言って。呑み比べてって事ですね。

出してくれたのは 竹林爽風 というお酒の特別本醸造。うん。美味しいです。でも呑み比べたらやっぱり私は純米酒の方が好きだなあ。

正直に言ってしまった。もちろん、美味しいと思ったのはウソではない。ただ純米に比べると軽くて、するすると呑みすぎてしまいそうなのだ。お酒を沢山呑む人にはいいかもしれないけれど、私は呑みすぎない量できっちり満足したいので、どっしりしっかりした純米を呑みたいのである。(まあ、たまに呑みすぎちゃうこともある。)

 途中で隣の席に常連男性がやってきた。がっしりした人で、顔と口調がちょっぴり所ジョージっぽいので仮に所さんとしておこう。明るく紳士的な所さんは注文した十全茄子(じゅうぜんなす)の漬物を

「一緒に食べましょう。」と言ってくださった。せっかくなので遠慮なくいただく私。うわあ、美味しい。果物のような瑞々しさである。

新潟県は茄子の種類がすごく多いんだよ、とマスターが教えてくれた。所さんはご自身でも十全茄子漬けを作ったことがあるそうだが、このお店のような味が出せない、と言っていた。

 お酒をもうちょっと呑みたいなあ、でも2合きっちり呑んじゃってるるから、もう1杯は多いなあ。「鶴の友を半分だけ欲しいな」とママに言ってみたら、快く出してくれた。ありがたいことである。

 

 ママやマスター、所さんとのおしゃべりの中で、私が探し回ったお店についてきいてみたところ、「あそこは店主が高齢でやめちゃったんだよ。」とマスターが教えてくれた。やはりそうか。こじゃれた店ばかり増えやがって。ママも「私の行く店がどんどんなくなっちゃうわよ。」と嘆いていた。

 楽しく過ごしているうちにお酒もつまみもなくなった。さあホテルに帰ろう。

所さんには「よくこの店に来たよねえ。」と感心したように言われた。とびこみで入ったお店が当たりだとうれしい。

 

  ホテルで、帰りにコンビニで買った納豆巻きを〆に食べて、その晩の飲食は終了。

                                つづく